化学的な処理方法
化学的といっても特に難しいことではなく、簡単に言えば、酸やアルカリ溶液の中に被塗物をつけてさびを取り除く方法です。
最近では、一般にこの方法が用いられており、物理的な方法と違って隅々まで脱錆ができるし、機械加工技術の向上によって、素材の表面状態がよくなり、脱錆→水洗→脱錆→防錆処理という組み合わせで、コンベアシステムにのせやすくなります。では、一体どんな方法で行われているかというと、俗に酸洗いと呼ばれる酸処理、電解酸処理、電解アルカリ処理、水素化ソーダ処理、アルカリ煮沸処理などがあり、もっとも多く用いられるのは、酸洗い法です。
酸による方法
酸洗いには大きく分けて二つの方法があり、酸液の中に品物を入れて浸す場合と、酸液をスポンジなどにつけて品物を洗う場
合とがあり、そのうち多く用いられるのは浸漬する方法で、これらの薬品には無機酸と有機酸が用いられます。
1.無機酸
これには、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸、弗酸、スルファミン酸などがあります。
2.有機酸
これらには、クエン酸、グリコン酸、蓚酸、蟻酸、ヒドロオキン酢酸などがあります。しかし、これらの酸ならどれでもよいというわけではなく、素材の材種、さびの程度、処理時間などをよくにらみ合わせて適切なものを選ぶようにします。
1) 塩酸
酸洗いの液としては、もっとも古くから用いられているもので、さびやスケールおよび反応生成分の溶解力が大きく、また価格も比較的安く、危険性も少なく、作業性もよいなどの利点があります。
酸洗い液の作り方については、市販の濃塩酸をさびの状態に応じて5~15%ぐらいに薄めて用います。酸液に共通していえることことですが、濃度がこれより薄くても、濃くて
もあまり効果はありません。
また、加熱して用いるときには5~6%位の濃度にして温度は40°Cぐらいにします。ただし、塩酸の場合は作業中に酸化性のイオンや固形物が生じたりするので、処理時間はできるだけ短かくします。
2)硫酸
酸洗いの薬品としては、価格が安く、一般的です。しかし素材への侵食作用が激しく、あまり長時間漬けておくと肌荒れするので、一般には通常インヒビーター (抑制剤)を用います。
一般に市販されている濃硫酸を(ボーメ66度と50度の2種類がある) 水で薄め、5~10の溶液として用います(水の中に硫酸を少しずつ撹拌しながら静かに入れる)。
常温では12あたり硫酸110g、加温の際は50g でよく、これにインヒビーター1~2gを加えて用います。このとき濃度よりむしろ温度が重要です。普通40~60°Cぐらいに加温して用いると脱錆力が増します。
3) 燐酸
燐酸は塩酸や硫酸に比べすぐれた点が多く、また過度に金属表面を侵食することが少なく、処理後の金属表面に薄い燐酸塩の防錆皮膜を形成します。そのうえ毒性がないなど理想的ですが、価格が他と比較して高くなります。
処理剤の選び方
燐酸の処理液には、燐酸マンガン系、燐酸亜鉛系、燐酸亜鉛-カルシウム系。燐酸鉄系など各種あり、いずれも燐酸に亜鉛、マンガン、鉄などの金属を反応させ、これに促進剤として硝酸、亜硝酸などの酸化剤を加えて用います。その他処理剤はメーカーによって若干の差があり、また被塗物の性質によっても違いがあるので、採用にあたってはあらかじめテストしてその結果を見て選ぶことが大切です。また、処理液には一液性のものと、二液性のものとがありますが、いずれにしても塗料の密着性がよい、耐食性がすぐれ、途膜の老化に影響が少ない、処理温度も低いなどの点を考えて選ぶべきです。
現在市販されている処理剤の成分、薬剤の濃度、処理温度、時間の関係等については表5-19.5-20) に示しました。
処理方法
このように処理液そのものが進歩し当然のことながら、作業方法も変わってきています。一般に行われている処理方法を挙げると、
①デッピング(浸漬)、②スプレー式、③ホスチーム法(スチームガン)、④トリクレンを利用するなどがあるが、最も多く用いられるのは、デッピングとスプレー式です。いずれの方法を用いるにしても、処理される金属の表面がきれいでなければなりません。もし、肌荒れやブツブツなどが付いているようなところがあれば、細かいサンドペーパーまたはスチールウールで軽く研ぎます。
処理にとって最も大切なことは、液の濃度管理です。最初の処理液はメーカーの指定どおりにしますが、問題はその後であり、作業を始める前には必ず液の濃度を調べるようにしなければなりません。その要領は、まず水を不足分だけ補充し、次に温浴にする場合は温度をあげて濃度を調べる必要があります。そして不足分だけの薬液を入れます。液の濃度は、ある一定限度までは付着効果はありますが、それ以上は飽和して効果がありませ ん。また温度も所定より低過ぎると付着が悪く、肌荒れなどの原因ともなるので温度管理にも十分注意する必要があります。
いずれにしても、酸洗いの目的は金属表面のさびを除去することにあり、同時に金属にとって無害であるということが理想です。
4)その他
その他の酸としては、スルファミン酸、クエン酸や修酸などがあり,特殊な素材に使われています。
5)酸洗いについての注意
酸洗いは、非常に強い薬品を使用するので取り扱いには特に注意が必要です。作業中は次のことを心がけます。
①浸漬中ときどき品物を動かすようにすると効果的である。
②酸洗いの後は必ずアルカリで中和する。
③硫酸を水で薄めるときは、水の中に硫酸を少しづつ入れて静かにかき混ぜ、次にインヒビーターを同じ要領で少しずつ入れていく。
④品物は完全に液中に没入しなければならない。
⑤脱錆後は湯洗いを完全にし、速やかに乾燥させる。
⑥酸液中に酸化性のイオンがあるといくらインヒビーターを入れても酸による侵食を押えることができないので、絶えず脱錆状態を見ながら作業を進める。
⑦水素ガスの発生があまりはげしいと、引火爆発の危険性があり、また硫化水素や亜硫酸ガスなどの有害ガスが発生することもあるので、換気には十分注意する。
6) 酸洗いの故障と対策
酸洗いのとき一番起こりやすい問題は、侵食のときに発生する水素ガスの侵入によって素材の脆化が起るということです。したがって、これらの対策に気を配ることが大切です。
①酸洗いは、出来るだけ速やかに、短時間で終るように考えること。
②塩酸を用いて常温で処理すると、比較的水素ガスの発生が少ない。
③液の中に酸化剤(硝酸、無水クロム酸、重クロム酸塩など)を2~5%程度入れるのも効果的である。
④電解酸洗いを行って,被塗物を陽極にさせるのもよい。
⑤水素脆化が生じたと思ったら、すぐ熱処理 (120 °Cで1~2時間,200°Cなら30分)を行って水素ガスを出させるとよい
電解錆落し法
電解錆落しというのは、品物を電極にして電気エネルギーによってさびを取り除くことであり、品物を陽極にする場合と陰極にする場合とがあります。
アルカリ液による錆落し法
酸洗いの代わりにアルカリを用いるもので、この場合は酸と異なり、有害ガスなどは発生しません。また水素ガスによる素材への侵食も少なく、しかもさびだけでなく、油や汚れも一緒に取り除くなどの特性があります。しかしその反面、侵食性が弱いので処理時間 は長くかかり、液温を高くしないとさびが取りにくいという欠点も見られます。
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