一般に、乾燥とは塗料(液体)が塗膜になることです。この塗膜の乾燥状態には各段階があり、これをJIS-K5400(塗料一般試験法)では指触乾燥、半硬化乾燥、硬化乾燥の3段階に分類しています。
実際の塗装作業において
①塗膜研摩が可能な乾燥状態までの時間
②重ね塗りが可能な乾燥状態までの時間
③被塗物の積み重ね、梱包が可能な乾燥状態までの時間
など次の塗装工程や関連作業に移れるまでの乾燥時間を各使用塗料について把握する必要
があります。乾燥、硬化の種類を分類すると表1-6に示すように多くの種類に分けられ
ます。
表1-6 塗料の乾燥・硬化の種類とその機構
乾燥設備
乾燥設備は、塗料の性質によって自然乾燥形のものと、加熱乾燥形のものとに分けられます。
加熱乾燥形のものは、加熱温度時間や加熱方法が被塗物の材質や形状によって異なるので、適正な設備を検討しなければなりません。
赤外線乾燥装置
赤外線乾燥は、熱伝導や対流を利用しないで、被乾燥体に直接赤外線を照射吸収させるもので、放射(輻射)熱によって塗料を乾燥させるものです。
この赤外線乾燥装置には、近赤外線と遠赤外線とがあり、前者は電球、後者は赤外線放射素子が熱源として使用されています。いずれも輻射線で電磁波として空間を通じて熱源
から直接物体に到達して吸収され、再び熱エネルギーとなります。
赤外線電球乾燥装置
使用する電球は、ガラスの透過域の範囲にある電磁波長となる0.7 ~3.0 μのものであり、一般に使われている電球はJIS 規格で定められています。
表1-7 赤外線電球規格
これら被乾燥物の温度上昇ならびに最高温度は、電力の密度によって決まるもので、例えば表1-7の横ピッチa、 ビッチbとすればa Xbの面積(cm)で一個の電球Wを割
れば、W/ab単位面積あたりの照度となります。
いま、a=325cm、b=320cm、1個の電球250Wとすれば250 /500となり照度は0.5W/cm2となります。この照度の大小によって温度上昇曲線のまま最高温度がどの程度か定めることができますが、単なる輻射エネルギーだけでなく、被乾燥物の色彩、照射距離、反射板の反射率、被乾燥物の形状、大きさ、重量、比熱などにより変化するので、計算上よりむしろ実験によって求めるべきです。
図1-5はその実験にもとづいたもので、照度による温度上昇線,ならびに被乾燥物の 板厚によった温度上昇状態です。近赤外線は,被乾燥物の色によって吸収がちがいます。
赤褐色は吸収のよい方であり,吸収度の相違を表1-8に示します。照射距離は250mm です。
表1-8 ペイント表面赤外線電球放射吸収率
図1-5 温度上昇線(1) および温度上昇曲線(2)
遠赤外線乾燥装置
放射素子の発熱体(金属)の表面にレアメタルの酸化物からなるセラミックの複合体を接着し、発熱体からの熱を遠赤外線に転換したもので、波長3~50μの超波長赤外線を放
射します。これは種々の型があり、一般には図1-6のようなものがあります。
図1-6 遠赤外線乾燥装置の熱源
この遠赤外線の放射素子の表面温度が、350 ~400 °Cになるとその放射波長と各合成樹脂の吸収波長とがほぼ一致しますので、塗料の分子に強烈な分子共振現象を起こさせ、塗
膜内外部がほとんど均一状態で加熱され、塗膜乾燥効果を速めます。例をあげると表1 -9のようになり
表1-9 被乾燥装置の種別による差異
近赤外線、遠赤外線にしても被乾燥物の形状により照射影を生ずるものには不向きです。輻射線のあたらないところは硬化が遅いので、装置(炉体)の設計にあたっては、形
状で照射等をよく考えるべきです。
その他ガス赤外線乾燥装置、紫外線乾燥装置、電子線乾燥装置、熱風対流乾燥装置など、様々な装置がありますが、どの装置にも一長一短があり、乾燥炉の選択にあたっては次の事柄に注意して検討すべきです。
①仕様目的に適し、効率がもっとも高い形式の炉を選択すること。それは償却費、燃料費も含む運転費、保守維持費、直接および問接労務費などについて、被塗装物のコストがいかなる影響を受けるかということを検討する。
②設置する環境、周囲の条件にマッチしたものであること。さらに前後の関連設備(例えばスブレーブース)との調和のとれたものであること。
③運転および取扱が簡単で容易なこと。
④使用燃料が入手しやすいもので、しかもコストの低いものを検討する。
⑤仕上りの時間の短いこと。
⑥被加熱物が均一に加熱されること。
⑦焼けむら、ゴミ不良などの原因となることのないもの。
⑧将来増設可能であることを考慮することも大切です。
⑨安全性が高く、メンテナンスの容易なこと。
⑩公害対策が施されているか,あるいは公害対策設備と接続可能かどうか。
乾燥炉の排気
有機溶剤形塗料の乾燥に使用する乾燥炉では、火災、爆発の危険防止のため排気を行い、新鮮な空気を導入しなければいけません。これは戸内で発生した溶剤蒸気の濃度を爆発下限界以下の濃度にするためであり、特に箱形のような密閉の炉においては、排気を厳重にしなければいけません。
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