時々お客様から矛盾したご依頼をいただくことがあます。
「ある部品を接着して加工したいんだけど、加工が終わったらできるだけ早く剥がしてしまいたいんだ。」
あるお客様からそんなご依頼をいただきました。
今回は実際にあったそんなお話です。
水晶振動子という電子デバイスがあります。
クオーツという言い方もしますが、ほぼ同じ意味です。
ある周波数帯の電気信号を正確な振動に変換させるという特徴をもっていて、時計の時間を正確に刻む装置などに組み込まれています。
このデバイスの製造工程は簡単に言うと以下の通りです。
1. 人工水晶を析出させて塊(インゴット)を作る。
2. インゴットを薄くスライスしてウエハー状にする。
3. ウエハーを何枚も積層させる。
4. 積層したウエハーを短冊状にカットする
5. 短冊状にカットした水晶チップに表面処理する
6. 水晶と電気回路を結びエポキシ樹脂などで注型成形する
ザックリと以上の工程で水晶振動子というデバイスは作られています。
今回はその6つの行程中の3番目~4番目に使われる接着剤についてのお話。
お客様の矛盾したご希望とは「積層した水晶ウエハーをしっかり固定して、
水晶の主成分は二酸化ケイ素(SiO2)、ほぼガラスと同じ成分で構成されています。
この水晶を1ミリ以下の薄さにカットしてウエハー状の輪切りをいくつも作ります。
ガラス質だから光を透過することができます。
このウエハー状の水晶を10~20枚程度積層させてその間に光硬化型の接着剤を塗布します。
水晶ウエハーの隙間に浸透した接着剤をある波長の光を当てると液状の接着剤が固化してウエハー1枚1枚を接着します。
このあと積層し接着剤によって塊になったものを十字の短冊状にカットします。
水晶ウエハーの切削加工といわれる工程です。
十字上に切り刻まれた水晶はまだ互いに接着剤でくっついたままです。
これをきれいに剥がして1枚1枚の小さなチップにしなければならない。
つまり積層して切削加工が終わるまでは強固に接着していなければならないが、切削加工が終わると直ちに、簡単に、きれいにはがれなければならない…。
そんな接着剤の開発がお客様のご依頼でした。
私たちが着目したのは
1) 仮着性能(仮止め性能)があること
2) 即硬化
3) 接着強度に差があるグレードをいくつか用意すること
4) 何か身近な溶媒で簡単に剥離すること
5) 出来るだけ残渣が残らないこと
6) 環境負荷物質が少ないこと
以上6点に留意して接着剤(仮着剤)の開発に着手しました。
そして完成したのは光硬化型の水溶性仮着剤で接着硬度別のグレードは5種類ほどのものです。
剥離剤はなんとお湯!つまり60~80℃程度に加温した水で溶けだす接着樹脂を見つけ出しました。
接着強度が高ければ高いほど剥がれにくくはなりましたが。
グレードをいくつも作ったことで、品質や加工難度に応じて接着強度の低い仮着剤も選択できるようにしたのです。
これはお客様にご採用いただいて特許を取っていただきました。
ご採用いただいてからはや20年を経過しておりますが、今もなお継続してご使用いただいております。
お客様から矛盾したご希望があると、私たちは通常その無理難題を嘆き、どちらかの性能をご選択いただくような発想で提案を用意してしまいがちです。
しかし今回の実例のように、一見無謀で相反する課題に対し解を求めることで技術革新は進むのだと思います。
光硬化、水溶性この二つのファクターは特に目新しい技術ではありません。
しかしこの二つを組み合わせ、しかも接着工程に使用したことでイノベーションが生まれたのです。
日本化材は色々考えます。
考え抜いてお客様に最適提案を心掛けております。
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